ユリイカ2002年10月臨時増刊号総特集=矢川澄子不滅の少女

澁澤龍彦の最初の妻＝矢川澄子を巡る物語。約50名の著者による、「矢川澄子追悼集」であろうか。彼女は翻訳者として優秀であり(作家としても才能豊かであったかどうかは不明だが…）、澁澤も多くの本の下訳者として彼女を利用していたのは事実。矢川さんは2002年に無残な死をとげた。その理由は様々に語られているが、少なくとも原因の一部分を占めているのが「澁澤龍彦」であったことは間違いない。そのために注意しないと見えにくかった、矢川澄子自身を知ることができる。彼女の写真を年代順に眺めていると、「不滅の少女」と題された理由がよく分かる。いつも「少女」を演じているかのようなその姿態はいっそ厭わしい。彼女はいつまでも「少女であった」のではなく、「少女でありたい」と心底望んでいたのだろう。そして「不滅の少女」が愛したのが「おにいちゃん」であったことは彼女にとって幸福だったのか否か。これは彼女自身しか分かるまい。彼女が鎌倉に居を構えていたために多くの方と親交があったため、驚くほど多様な人がこの本に寄せている。びっくりしたのは加藤郁乎の詩。本を取り落としそうになった。加藤の良識を疑う。故人との関わりを無視せよとは言わないが、あまりに直裁的な内容であり、読むに耐えない。はっきりと言うが不快そのもの。高橋たか子の文章には、「書きたくないがとりあえず寄稿しよう」との意図が見える（この点は憶測・加藤については「後方見聞録」参照）たか子自身の宗教的判断とは思いたくないが…彼女が常に「澁澤龍彦の最初の妻」としてしか遇されなかったのはあまりにも彼女に対して失礼であったかと思う。一番よかったのが、松山俊太郎・池田香代子・佐藤亜紀の鼎談。佐藤氏の言が、一番よく矢川澄子を取り巻く情景を表現している。「（矢川の死について）申し訳ないけど私は何も言いたくありません。誰かが死ぬとみんなでよってたかって色々ほじくりかえして悪口言い過ぎるんですよ。」「どうしてテクストを作者の実生活から切り離して読むことができないのか疑問に思いますし…（私が）死んだときに何を言われるのかぞっとします。」多面的に矢川澄子を知る格好の本ではあるが、一皮めくればそこには「○性自身」的「微○」的感性がほの見える。つまりはこの本は「暴露本」まがいと思える。私には「嫌な感じの週刊誌」を読んだという感覚しかのこらない。「他人の生活を覗く」趣味の方は買って損はないだろうが