人民の戦争・人民の軍隊 - ヴェトナム人民軍の戦略・戦術 (中公文庫)

ベトナムも、朝鮮も第二次大戦前は植民地支配の下にあったアジアの小国である。ベトナム戦争、朝鮮戦争と言う、冷戦下の二大戦争の舞台となった。だが、その後の運命はかなり異なる。ベトナムは、北による「自主的」な統一を成し遂げ、社会主義国家としての一歩を踏み出す事になったはずだが、結局は社会主義もどきの資本主義国家となったようだ。ＡＳＥＡＮの一員としてソコソコの経済発展を遂げている。朝鮮は、分断が固定され、南北が別個の道を歩む。南の軍人独裁政権の人権抑圧は見事なものであったが、米国と日本の経済支援の下での工業化に成功し、遂には民主化を遂げ先進国の仲間入りをした。北の方はご存知のとおりの有様だ。どちらの国が幸せかは一概には言えないが、運命を自らの手で決めて来たのはベトナムの方だろう。朝鮮戦争は、最終的には、米軍と中国の義勇軍との戦いになったが、ベトナム戦争は、最後までベトナム対米軍の戦いで、最終的にはベトナムの勝利（サイゴン陥落・南北統一）になった。本書は、そのベトナムの勝利を軍事面で支えた名将ヴォー・グエン・ザップが、その前にフランスからの独立を得たインドシナ戦争について、戦略・戦術を述べたものである。① 人民軍は、革命の任務を実現するための、党と革命国家の武装した手段である。軍における民主主義ならびに規律は、党内に適用された民主的中央集権制の反映である。② 植民地戦争の性格から、敵は占領した地域を確保する為には、兵力を分散させざるを得なかった。このように分断された敵の部隊は、やすやすと餌食となった。③ 敵の弱点は、その戦争の不正義な性格にあった。それによって敵は隊伍内の分裂を起こしたり、人民の支持や世界の世論の賛同を得ることができなかったりしたのである。以上の三点を踏まえた上で、地理的条件や季節、彼我の実力差を踏まえ有利な条件下でのみ戦闘を挑み、「世界の世論の賛同」を得て「和平」により目的を遂げると言うものだ。特にディン・ビエン・フーの戦いでの冷静沈着な判断は名将の名を歴史にとどめることになった。本書の範囲外だが、ベトナム戦争にも当てはまると見てよい。本書によれば、マルクスの遺志が、レーニンを経て、ホー・チミンとその同志ヴォー・グエン・ザップに受け継がれたはずなのだが、その後の現実は民族革命止まりのようだ。インドシナ戦争、ベトナム戦争を担った世代のベトナム人の今の気持ちはどうなのだろうか。