アジア実力派企業のカリスマ創業者 (中公新書ラクレ)

260ページ中、主要な5社、200ページ以上が華語圏の人物で、「中台実力派企業」といった方が適切かもしれない。30年程度で1兆円企業を築いた、まさに現代の松下幸之助級の創業者たちを紹介する。シャープ買収に名乗りを上げたホンハイもそうだが、ブランドを前面に押し出す企業が少なく、名前しか聞いたことがない、名前も知らない企業ばかりだった。いずれも破竹の勢いという電機メーカーの成功譚を読むにつれ、日本の電機メーカーが不振続きなのか理解できる。日本製家電が絶頂期だった80〜90年代、アメリカのブランド企業は生産ラインを抱えられなくなった。リスクを分散させるために、台湾などの電子メーカーをパートナーとして水平分業を進めてきた。ホンハイやTSMCは受託製造を専業とし、自社ブランドを持たない。だから、ブランド企業の競合にはならない。ホンハイは大陸にもいち早く進出し、低コスト量産のビジネスモデルを作り上げた。「半導体の設計を専業とするファブレス、受託生産を専業とするファウンダリー」という風に、半導体製造の分業化が進むとTSMCの創業者は予想し、ファウンダリー専業企業を台湾政府の支援で設立した。技術力、商売上手で知られる世界のライバルを相手に台頭し、20年で世界3位の半導体企業を作り上げた。登場する経営者の多くが、身近なライバルでありベンチマークでもあった日本企業をよく観察していることも見逃せない。TSMCの創業者も「日本は分業化で遅れを取った。半導体の損失をそれ以外の事業で補填しているが、専業メーカーではありえない」という。日本の半導体メーカーは80年代に大儲けしたが、莫大な固定費がかかる垂直統合型システムからなかなか脱却できない。人為的に作り出されたテレビバブルを本物だと読み誤ったシャープも、建てた大工場のツケに悩まされている。滅多に表に出ないファーウェイの創業者は「何百回も聞くたび目頭が熱くなる」という「北国の春」を表題にして、「高齢の経営者が多くて活力がなく、イノベーションも生まれなくなった」とい日本企業の凋落に学べと力説している。ホンハイ創業者は「一緒に技術開発しようというのに、技術流出を懸念するのは間違いだ。日台で組めばサムスンに勝てるのに」と日立との液晶提携を破談にした経産省に怒りをにじませる。中台の幸之助たちが語る日本電機産業論に納得できるところが多かった。ただ、松下幸之助のような、強烈な個性を持つ創業者が引っ張っている間は、1兆円、10兆円といくら巨大になろうが創業者が自分だけで判断できるから安泰だろう。真価が問われるのは、創業者が消えてからではないか。それにしてもホンハイの売上10兆円とは……。受託製造専業で日立と同クラスか。