奇跡のはじまり: ある音楽家の革命的介護メソッド

この本は、プロの音楽家（フルート奏者）である著者が脳溢血で障害を持つようになった妻（絵画的な分野での芸術家）の介護を行う過程を綴った本です。著者は、単に音楽を奏でるだけでなく、社会的な視点を持ち、広く活動を進める人であり、妻が病気になる前から、女性だけで構成されるオーケストラを主催したり、介護施設での音楽活動を進めたり、というような志をもった方のようです。そんな著者であっても、突然に訪れた妻の病気と介護の生活は苦難と悩みの連続であり、そのたいへんさが伝わってきます。奥さまを献身的に介護し、回復を支え、一緒に生きていく姿は、夫婦の間の深い愛情を感じます。そして、著者が、脳溢血での障害について、リハビリテーションについて、そして人生や芸術とは何かについて書いておられる内容はとても考えさせられます。また、著者は音楽家ですが、筆力も相当のものであり、一人称で語られる物語としてこの本を読んでも一級の本として読めると思います。一方、「ある音楽家の革命的介護メソッド」というサブタイトルはやや懸念を感じます。本書には音楽が介護で果たす重要な役割が書かれてはいますが、それが「革命的」とまで言えるかどうか。そして、このサブタイトルをみた人は、「脳溢血を発症した人すべてが直ちに実践できる具体的メソッドが書かれている」と思うかもしれませんが、そんな具体的なノウハウが書かれたハウツー本ではないので、注意が必要です。総じていえば、ノウハウが書かれた実践的な本ではなく、夫婦の愛情を感じ取り、さまざまな事柄を考えさせられるようなタイプの本です。その面で、惹き込まれて読んでしまう本であり、お薦めできる良書と思います。