大落語〈下〉

江戸-明治で原型が成立した噺を「古典」と呼んでそれ以降のものと分け、その「古典」が現在まで語り継がれている落語。その考察を通して江戸から現在を串刺しにする視点が得られるのではないか、という発想は容易に思い浮かぶ。その場合、採りやすいのは、江戸-明治を一くくりにし、それと昭和-現在を対比するというアプローチだろう。しかし、筆者は江戸と明治の断絶を重視する。既に明治において日本人は悪くなった、と。これは、特に下巻始めの2つの章に顕著で、憤りは激しい。ただし、落語の歴史を追った本ではなく、同じ噺の演者による違いの掘り下げも豊かに展開されている。しかし、それも芸論・人物論ではなく、時代からの考察の面が強い。終盤『お直し』を題材とした志ん生、志ん朝父子の対比は特に読み応えがある。時代論を中心に据えると議論が硬直しやすいが、昭和を語るに際して主に座頭市とジャズを使うなど、筆者お得意の方面に遊ぶことで、その印象を免れている。あらすじの途中の脱線などが多く、ところどころ読み進むのに骨が折れるが、楽しめた。